小学1年生の作文から生まれた絵本たち「白幡美晴 絵本原画展」開催中(2026年9月30日まで)

『ととのはたけと、うたれちゃったしか』(ヒマッコブックス)&その英語対訳版『にんげんばかり そばをたべるのは ずるいよ』(童話屋)2冊の絵本原画展が、神奈川県相模原市の絵本専門店・こどもブックベースとエコパークさがみはらの2館で開催されています。ご案内の詳細はこちらです。
お近くの方、相模原を訪ねる機会のある方は、ぜひお立ち寄りください。原画ならではの美しい白幡さんの作品を堪能していただきたいと思います。

こどもブックベースでは、2冊の絵本とともに、絵本の文の作者、畠山凪(はたけやま なぎ)くんの祖父・畠山重篤さんの著作の数々も展示販売しています。

重篤さんが、2012年に国連のフォレストヒーローズに選ばれ、ニューヨークの国連本部での受章式にお土産で持参した、『カキじいさんとしげぼう』も。その際に、英語・フランス後・ロシア語・スペイン語・ポルトガル語の5つの翻訳語版も作られました。
この夏は、日本国内の洪水にネパールの土石流災害はじめ、空前の災害のニュースが立て続けに飛び込んできて、いよいよ地球の悲鳴が聞こえるようです。
重篤さんは言っていました。
「人の心がやさしくなれば、自然は思っているより早く蘇る」
それは<経験から得た確信>だと。
重篤さんが亡くなって1年半。この時間が経ったうちにそれが間に合わなくなっていないように、と切に思います。
孫の凪くんは、こう書いています。
「にんげんと しかが なかよくなったらいいです。」               
<しか>とは、鹿だけのことを言っていない。凪くんは、小学1年生の言葉で、じいじと同じことを言っています。

『アフリカの難民キャンプで暮らす』の小俣直彦さん、待望の2冊目『世界難民危機』出ました!

日に日に世界が悪くなる――ハンバートハンバートの「笑ったり転んだり」のこのフレーズに毎朝一瞬、心が止まった。朝起きてニュースに接するのが怖い日々……それがずっと続いています。
暗澹たる気持ちに引きずり込まれそうになる中、前向きの立脚点を探れる本だと、『アフリカの難民キャンプで暮らす』(2019年刊/以下『アフ難』)をおすすめしてきました。
そんな第1作から7年をかけて小俣さんが取り組まれた『世界難民危機』が、岩波書店から刊行されました。たいへん貴重な1冊です。

『アフ難』は、ロンドン大学で博士号取得論文のためのフィールドワーク、ガーナのブジュブラム難民キャンプでの400日の記録。論文には書き込めなかった、「隣人として」接したリベリア難民たちの声が綴られ、控えめながら小俣さんの人柄も醸し出て、とても面白い(難民という深刻なテーマなのにこの言い方はどうかと思いますが、敢えて)。
論文のほうは高く評価され、2012年から小俣さんはオックスフォード大学に就任します。

『アフ難』の献辞は、「ジュディスとの約束を超えて」となっています。
ジュディスも難民で、リベリア大学卒の才女。「調査結果はUNHCRや政府に報告して難民キャンプの支援の向上につなげたい」と調査の協力を求める小俣さんに、「あなたは嘘をいっているわ!」と言い放ちます。「あなたはただの学生でしょ? UNHCRや政府は一学生の進言なんかで支援や政策を変えることなんて絶対にないのよ。でもわかった。あなたが学位をとって将来偉い先生になればいいのよ。そうすればUNHCRや政府だって、あなたの言葉に耳を傾けるようになる。だから調査に協力してあげるから、それを必ず本にしなさい。いいわね、約束よ」
小俣さんは今、「偉い先生」になってそれを果たしていることを『世界難民危機』から知ることができます。

さすが岩波書店の出版物で、『世界難民危機』は学術的なことがしっかり書かれています。
けれど、淡々とした筆致なのに、筆者の声が聞こえる文章で、その声に導かれるように専門家ではない私でもつっかかることなく読みました。
専門家の本として、この読みやすさは稀有だと思います。

「難民になる、とは、再生のプロセスなのだ」と小俣さんは第1作で書いています。
そして、第2作では、「危機という言葉の英訳はクライシスだが、それは危険で不安定な状態を指す一方、重大な局面、岐路、転機という意味をもつ」と書き、後者の立場から、研究者としての想いを込めています。

日に日に世界が悪くなる――日々の暮らしで思う以上に、いえ、思ってもみないほどの事柄が『世界難民危機』ではたたみ込まれるように提示されます。
読み進めるなか通底して感じさせられるのは、書かれている難民の問題に、今の世界を(日本を)覆っている不穏なこと(小俣さんは「悍(おぞ)ましい」という言葉を使っています)の成り立ちを見せられているということです。それが、難民という一番の弱者のうえに全てが顕れているのではないかと。
暗澹たる気持ちは深まるばかりで、この本の結末はどこに向かうのだろうと思わずにはいられませんでした。
が、最終章から〈おわりに〉の閉じ方が見事。閉じ方というより、内容的には「開け方」なのです。そして、最後の最後の一節「凡人の人道主義」で心が揺り動かされました。
まさかこの本で泣くことになるとは。
読了後、岩波書店の編集者氏に連絡を取らせていただいたところ、氏も「最終章のメッセージについては、私も胸に迫るところがありました。多くの読者に届くと良いのですが」とおっしゃっていました。

改めてジュディスとの約束を思います。これこそが、「必ず本にしなさい」の真意だったのではないか……ジュディスは、聡明果敢なその願いを、多くの人に知ってほしいと思った。
手前味噌になりますが、専門家でない方は、まずは『アフ難』をお読みください。これを読んだあとなら、岩波レベルについてゆけます。
最新の稀少な事例まで取り上げられている包括的なことをお読みになりたい方は、岩波からの最新刊を是非。そして願わくば『アフ難』もお読みください。
学生だったからこそ可能だった400日という長期のフィールド滞在(難民の青年と同居)。時間をかけて難民の人たちと信頼関係を紡ぎ、聞きとった一人一人の話から編み出された一篇は、ブジュブラム難民キャンプのことのみならず遍(あまね)く難民問題が抱える人間問題(つまりは、いのちの問題だと私は思っています)を語りかけてきます。

このHPで何度かご紹介している畠山重篤さんは、小俣さんのことを「日本の大事な人だから」と、『アフ難』をたいへん応援してくださいました。
そのわけがわかった気がします。畠山さんは小俣さんを、確かな希望を語れる人として親しみを持ったのだな、と。

久しぶりに「笑ったり転んだり」をきいてみました。名曲ですね。

*『アフリカの難民キャンプで暮らす』はヒマールの通販サイトよりお求めいただけましたら幸いです(送料無料)。

 (2026年8月)

立春招福2026 We shall overcome

ちょうど2年前の2024年2月10日~18日、小社刊『疫病と妖怪―アマビエと予言獣』とヒマールとの共同出版レーベル・ヒマッコブックス刊『転校生の花子さんとヨゲンジュウ』の原画展が開催されました。
画家の楢喜八さんが「ぜひヒマールで!」と、東京から岩国に駆けつけてくださり、貴重な西日本での展観が実現――名づけて<立春招福 ヨゲンジュウ ザクザク展>。(冒頭の写真はその原画展での一枚。楢さんが手に持っているのは『転校生の花子さんとヨゲンジュウ』に登場する“アマビコ”で、ヒマールで個展も開催しているクラフト作家・中澤京子さん作。)

その楢さんの突然の訃報が、昨年12月2日に届きました。享年86。
私(こぶな書店の小鮒)はたったその2週間前にお元気な楢さんに会い、これからやりたい本のアイディアの数々をお聞きしていたので、信じられない急逝でした。
「小さな画集(タイトル未定)」を小社で作りたいと、その原画をお預かりもしたのです。

楢喜八さん。1968年にミステリマガジン(早川書房)でデビュー以来、独特のブラック&ユーモアの作品世界を築き、出版界の第一線で活躍されました。1990年に始まった「学校の怪談」シリーズ(講談社 〜2015年)で少年読者のファンも誕生。以後、幅広い年齢層に愛され続けています。2025年7月に新シリーズとしての第1巻目『えほん 学校の怪談―トイレの花子さん・かくれんぼ』(講談社)を上梓。

2年前、楢さんは奥さま(ミステリマガジンのデビューの立役者です)とご一緒に岩国に到着。駅前から会場のヒマールに向かって歩いていた時、奥さまが楢さんのことを「例えばこうして一緒に歩いていても、見えているものが違うんですよね」とおっしゃったことを印象深く覚えています。
そうしたら楢さんが「へっ?」というように顔を向けられ、奥さまが「これ、褒めてるのよ」と。なんとも微笑ましく可笑しかった。
そしてヒマール在廊中には、書店コーナーにあった一冊の絵本をお買い上げ。「これは勉強になりそうだ」と、さりげなくつぶやきながら。

***

葬儀の行われた昨年12月10日は、楢さんのお人柄のように雲ひとつない青空の、暖かい日でした。
楢さんの好きな歌だとご家族が選ばれた讃美歌「We shall overcome」が歌われました。

We shall overcome
We shall overcome
We shall overcome some day
Oh, deep in my heart
I do believe
We shall overcome some day

お預かりした「小さな画集(タイトル未定)」の原画30点の、一番最後にあった一枚が、この歌の絵「We shall overcome」でした。
カエルのカップルが歌っている、とっても可愛いらしい絵。
けれど、今となってはこれは楢さんの遺言だと受け止めないわけにはいきません。

1939年樺太生まれの楢さんは、幼少期に戦争を体験していらっしゃいます。声高に語ることはなかったけれど、受注仕事とは別に、終生精力的に個展を続け発表された作品を拝見すると、その背負われていた悲しみと祈りに打たれます。
作品集『誰かが見ている』(小社刊 2020年/品切れ)でも圧巻の作品が収録されています。その巻末インタビューで、
「年齢とともにちょっとおとなしくなってるから、戻りたいって気持ちで、今描きたいと思っている絵があります。仕上がるまで秘密です」とおっしゃっています。

「We shall overcome」がその絵なのか、確認することはもうできないのですが、私にはそうであると思えます。
一見「おとなしい」作品のように見えます。けど、だからこそ、ブラックに強烈な大作をしのいでいるように。

Oh, deep in my heart(心の深いところで)
I do believe(私は本当に信じている)
We shall overcome some day(我らはいつの日か必ず克服すると)

最新作『えほん 学校の怪談』の絵には、静かな後光のように楢さんの新境地を感じます。
“分けられないものを明確に分けた途端に消えるものを魂という。”
つい先日、心理学者の河合隼雄さんの対談集の中で出会った一文です。
これを読んでふと思いました。
楢さんには、生命と絵を描くことの間の分かれ目がなく、後光を感じさせる静かな何物かこそ、<魂>なのではないかと。

▲『誰かが見ている』より

畠山重篤さんの最後の書き下ろしエッセー集「“生きもの好き”少年記」所収『ととのはたけと、うたれちゃったしか』を図書館・学校・学習現場に寄贈します

〈森は海の恋人〉――畠山重篤さん(2025年4月3日逝去)が遺したこの言葉は、おそらく地球のある限り色褪せることはないでしょう。
畠山さんを偲び、小社刊『ととのはたけと、うたれちゃったしか』(ヒマッコブックス/こぶな書店+ヒマール/2022年)を、図書館と学校(小学校~大学)・学習現場に寄贈します。
本書所収の「“生きもの好き”少年記」が、図らずも畠山さん最後の書き下ろしエッセー集となりました。
今こそ、ひとりでも多くの方にお届けしたいと願っています。

(2025年10月)

畠山重篤さんプロフィール
1943年中国・上海生まれ。気仙沼市・舞根湾で牡蠣・帆立貝の養殖業を営む。1989年、「森は海の恋人」を合言葉に漁民による植林活動を始める。同時に、子どもたちを海に招いて「体験学習」を実施。受け入れた数は二万人近く。その活動は、小・中学校の教科書に取り上げられている。
2005年より京都大学フィールド科学教育研究センター社会連携教授。受賞、著書多数。2012年に国連「フォレストヒーローズ」。名エッセイストとしても知られ、代表作『森は海の恋人』はオギュスタン・ベルク訳によりフランスで出版(“La Forêt Amante de la Mer” /Wildproject刊/2019)。

■寄贈のご希望は、下記1〜4を明記のうえ、本サイトのコンタクトよりご連絡ください。
1. 学校名・大学名、または図書館名。学習現場*の場合は、主催者名・講座名やイベント名など
*学習現場には、大人対象の研修・セミナーや勉強会を含みます。
2.ご担当者名
3.寄贈図書の送り先と電話番号
4.希望冊数

『ととのはたけと、うたれちゃったしか』は、畠山さんの孫の凪(なぎ)くんが、小学校1年生の夏休みに書いた作文を絵本にしたものです。先頃、英語対訳版(『にんげんばかり そばをたべるのは ずるいよ』山浦玄嗣訳/童話屋/2025年)が刊行され、この10月4日にはNHKのETV特集「カキと森と、ときどき凪」が放映され、話題を目にした方もいらっしゃるかと思います。その中で畠山さんは、
「生きものが好きなんだなあ。なぜ好きなのかと言われても困るけど、生きものと一緒にいれば喜びを感じる。そういう性格なんだね。わからないね、なんでそういう性格になったのかな」
と語っていました。
その言葉通りがタイトルになったエッセー「“生きもの好き”少年記」。初めて書かれた幼少期の記憶です。
“生きもの好き”重篤少年が、遊び、育まれた、舞根の海と山、そして父・司さんと母・小雪さんの存在。母は、5歳の息子が嬉々として持ち帰る小さな雑魚の釣果を満面の笑みで「よぐ釣ってきたごと」と褒めます。父は、一緒に山を歩き、海で遊び、様々な動物に興味のつきない重篤少年を見守ります。
そして重篤さんの筆は、匂いたつような輝く舞根の〈ちいさな世界〉の情景を、描き出しています。

●『ととのはたけと、うたれちゃったしか』刊行のいきさつ

東日本大震災の後に生まれ、祈りを込めて「凪」と名づけられた少年が初めて書いた作文に、畠山さんは強く心を揺さぶられます。
2021年秋、突然、畠山さんから、子どもの文字で書かれた原稿がFAXされてきました。冒頭のタイトルの脇に「はたけやま なぎ」の名前。200字詰め原稿用紙2枚。何の添え書きもなし。
畠山さんとは長年、児童書の著作の編集をさせていただいてきたことから折々交流がありました。
入学式の写真を見せるが如く、作文でもなんでも身近な人に見せたいおじいちゃんの孫自慢? と微笑ましく読み始めましたが、読み終わった時にはたった400字の読後とは思えない時間と密度を感じました。
すぐに電話をして、素晴らしい作文だと思う旨をお伝えすると、「今しか書けない作文だな。凪に負けたよ!」と嬉しそうにおっしゃいました。
畠山さんがこの作文を本にしたいと思っていらっしゃることは容易に伝わってきました。
私のほうも、一読してこれは本になる力のある原稿だと思いました。
でも、敢えてそれは言わなかった。
なぜなら、この作文が孕んでいるものが大きすぎると思ったからです。この作文を本にするには、こちらに相応の力がないとできない。無責任に「本にしましょう」とは言えなかったのです。

そうして季節は秋から冬に移っていきました。それは畠山さんの中で、凪くんの本を作ってあげたいという思いが確かになっていく時間でした。
2021年暮れ、畠山さんと一緒にヒマールの辻川ヒムヒム・純子さんを訪ねた時のことでした。「これは本にならないだろうか」と、私含め三人にはっきり切り出されました。
三人で話を受けたのがよかったと、こうして振り返ってみるとしみじみ思います。ヒマールの二人はデザインと編集を手がけるユニットです。彼らには直感的に本の形が見えたようでした。

凪くんのご両親も出版を快諾くださいました。その際に父・耕さん(重篤さんの二男)がおっしゃった言葉――
「凪にとって、自分の住んでいる舞根(もうね)が世界のすべてです。〈にんげん〉とは、家族や友だちや近所のおんちゃん・おばちゃんです。その〈ちいさな〉世界を守ってあげたい」
私達はそれを大切に、本を作りたいと思いました。
絵は、同じ舞根に住む叔母・白幡美晴さんにお願いすることにしました。凪くんの見ている風景を描いていただこう、それができる画家は白幡さんしかいません。ヒマールのデザイナー・ヒムヒムが造本設計をし、〈ちいさな〉本づくりは動き始めました。

●凪くんの作文が生まれた背景 〜ふるさと舞根

重篤さんが「“生きもの好き”少年記」に描いた風景ーーその80年近く前と変わらぬ中に、今、凪くんがいます。
2011年の東日本大震災の大津波で、一度はその景色は蹂躙されたかに見えました。
母の小雪さんも帰らぬ人となりました。
しかし、重篤さんは「それでも海を恨まない」「美しいふるさとは必ず蘇る」「なぜなら、背景の森と川がしっかりしているから」と、震災直後からみんなの気持ちを牽引し続けました。
2014年、凪くんは生まれた。凪くんは、蘇るふるさと舞根と共に育ちました。

舞根は、見事に元の風景が蘇っただけではありません。
大地震による地盤沈下によって、沼地と汽水湖が現れました。そこは日に日に様々な生物で賑やかになった。イサザアミ、アサリ、ハゼ、小さなエビやカニ、ヤドカリ、ツブ……やがてメダカの楽園となり、絶滅危惧種のウナギが戻ってきた。
舞根は、山・川・湿地・汽水湖・海という、生命の一大パノラマを体感できる、まさに〈ミクロコスモス〉となりました。

けれど、このミクロコスモスは偶然の恵みを享受しただけで叶ったことではないのです。
「地盤沈下した土地は埋めて耕作地にする」「今後の防災のために、とうてい海を臨めない高さの防潮堤を作る」――それのみにしか復興予算がつかない中で、
「生物のために湿地をそのままにする」
「汽水域を守るために防潮堤は作らない」
と決議し実現するのは、並大抵のことではありませんでした。
青森から福島までの大津波被災沿岸で、防潮堤を否決した自治体は二つだけだそうです。

写真提供:NPO法人森は海の恋人

●英語対訳版との並走、そして寄贈を決めた理由

『ととのはたけと、うたれちゃったしか』の英語対訳版は、縁あって童話屋さんにお引き受けいただきました。
童話屋は、「ポケット詩集」シリーズや『葉っぱのフレディ』で知られる詩と絵本の出版社です。
編集者の田中和雄さんは、「畠山さんは、凪くんの作文の中の〈詩〉を見抜いたのですね」と言われました。「凪くんは殺された鹿をみて傷ついている。血を流して傷つきながら、さびしいとか、かなしいとか、うれしいとか、根源的な人間の気持ちに気づいた。ちいさくても詩人なのです」と。
童話屋の英語対訳版では、『にんげんばかり、そばをたべるのはずるいよ』と改題、思い切って重篤さんの「“生きもの好き”少年記」は外し、凪くんの〈詩〉の絵本となりました。白幡さんの絵も刷新され、美しく素晴らしい一冊です。
私たちも、原作本の版元としてたいへん嬉しく思っています。

そして、この素晴らしい絵本の完成を見るに至り、改めて重篤さんの「“生きもの好き”少年記」もまた、沢山の方に届けたいと願っています。

“凪”は漁民にとって究極の願いである。
嵐のことを時化(しけ)という。時化とは自然現象を指す言葉だが、
漁民にとって環境破壊や紛争も時化といえる。

「“生きもの好き”少年記」のエピローグの冒頭です。この言葉は英語対訳版にも添えられ、重篤さんのラストメッセージとなりました。
小学生になった凪くんと汽水湖を散歩するシーンで「“生きもの好き”少年記」は閉じられます。時を超えて、祖父と孫は二人の少年として出会うのです。

〈森は海の恋人〉の合言葉のもと、赤潮まみれの海を青い海に戻したいと37年前に始まった牡蠣漁師による植林活動。
重篤さんは言っていた。

漁師が山に木を植えることは、人の心に木を植えることでありました。

また、国連フォレストヒーローズ受賞(2012年)のスピーチで言った。

森には三つあるのです。
山の森、海の森、そして心の森。
これは確信です。人の心がやさしくなれば、思ったより早く自然は蘇ります。

“人の心”が凪ぎますように――

今年6月、重篤さん亡き後の「第37回森は海の恋人植樹祭」に、例年通り参加者が全国から賑やかに集いました。
環境破壊と紛争の世に、ひとりひとりが一本の苗木を植えました。
木を植えている手に確かな希望を実感できるということ。重篤さんはずっと、それを教えてくれていたのだな……

そんな畠山重篤の原点を綴ったエッセー「“生きもの好き”少年記」、ぜひお読みください。
エッセーは全文ふりがな付きです。
寄贈のご希望を心よりお待ちしています。

小鮒由起子
[編集者。担当した畠山重篤さんの著作に、『漁師さんの森づくり』(講談社/2000)、『カキじいさんとしげぼう』(講談社、後にカキの森書房/2005)、『鉄は魔法つかい』(小学館/2011)、『人の心に木を植える』(講談社/2018)他]

■寄贈先の条件にあてはまらず購入をご希望くださる方は、お近くの書店にお問い合わせいただくか、共同出版元・ヒマールのオンラインストアでご注文ください。送料無料でお送りいたします。

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おおきな かわの むこうへ

畠山重篤さんと初めて会った時のことが、どうしても思い出せない。
1999年の秋であったはず……。『漁師さんの森づくり』(講談社 2000年)の仕事でのことだった。その後いつでもそうだったように、穏やかに機嫌よかったはずだ。
そんな畠山さんが、全力疾走でゴールを切って、そのまま駆け抜けていってしまったように、ふっといなくなってから1ヵ月が経つ。

出会いから20年後に、私はこぶな書店を立ち上げた。最初に刊行した『アフリカの難民キャンプで暮らす』(小俣直彦 2019年)のトークイベントに、畠山さんは登壇くださり、こう語られた。
「私はカキの養殖をしている漁師です。<森は海の恋人>を合言葉に、山に木を植えています。つまり、海から川の流域全体を見る――そういうものの見方です。これは単にいいカキをつくるということではありません。人類の文明の歴史は、四大文明にしても、川の河口から生まれているわけです。川の流域の環境が壊れれば、人類は滅びるわけですね。
川の流域とは、すなわち人間のありようです。
ですから私は、おそらく難民問題の非常に根本的な問題も、森は海の恋人(川の流域の環境を調えるということ)と物凄く関係しているんじゃないかと、実は思っていたのです」

小俣さんの原稿に、難民のことを越えて遍く人間のことがらを孕むものだ、と魅力を感じていた編集者の私は、この言葉に励まされた。
つまりは「いのち」の話であると――。

こぶな書店2冊目のノンフィクションは『僕、育休いただきたいっす!』(税所篤快 2021年)。
税所さんとは小俣さんの本の縁で知己を得た。教育界では知る人ぞ知る、甚だしい(褒め言葉です)行動力で世界を巡って活動する若き起業家だった。その税所さんが書き上げた1年間の育休の記録。
抱腹絶倒の新米パパの奮闘とともに、赤ちゃんを連れて真珠湾に、水俣に、福島にと旅をし、人に飛び込み、話し、考える。
その眼差しはまさに<森は海の恋人>的だと思っていたら、税所さん、気仙沼・舞根湾の養殖場に畠山さんを訪ねて、さっさと友だちになっていた。
舞根に暮らす畠山さんの孫たちと一緒に、税所さんの息子たちが海辺を駆け回って遊ぶようになった。

そんな孫の一人、凪くんと畠山さんの共著『ととのはたけと、うたれちゃったしか』(ヒマッコブックス/ヒマールとの共同出版 2022年)を刊行できたことが、残された宝物となった。
  世界中が凪ぎますように――
小さなこの本に込めた祈りが、畠山さんは叶うと信じていた。
信じていたからその言葉を残した。
はじける笑顔とともに。

2025年5月2日

畠山さんと小俣さん。2019年6月20日、オックスフォード大学東京事務所にて出版記念講演会。小俣さんはネクタイを忘れ、急遽、畠山さんに借りて(撮影:宍戸清孝)
畠山さんと税所さんの長男・たかちゃん&次男・ヒロくん。舞根の畠山さんの書斎で2022年4月。パパと男の子二人のパワーにさすがの畠山さんも圧倒されていた

2020年秋にヒマールが畠山さんを招いて開催したトークセッションの文字起こし全文が無料公開されました。どうぞゆっくりお読みください。
https://himaar.com/main/?p=3821

〈畠山重篤(はたけやま・しげあつ)さんプロフィール〉
「森は海の恋人」を主宰。宮城県気仙沼湾(舞根湾・もうねわん)でカキ・ホタテの養殖業を営み、1989年より漁民による植林活動を始める。2005年より京都大学フィールド科学教育センター社会連携教授を務める。2012年には国連より「フォレストヒーローズ」として世界で5組の内の一人に選出された。『日本〈汽水〉紀行』(文藝春秋)で日本エッセイスト・クラブ賞受賞。『人の心に木を植える』(講談社)、『鉄は魔法つかい』(小学館)など著書多数。2022年、ヒマッコブックス(ヒマール+こぶな書店)より孫・凪(なぎ)との共著『ととのはたけと、うたれちゃったしか』を刊行。この本をベースとした『にんげんばかり そばを たべるのは ずるいよ』(童話屋)が生前最後の作品として2025年5月刊行予定。

Love is All――2024新年のご挨拶にかえて

本年が穏やかで健やかな年となりますよう、お祈り申し上げます。

1月5日、干支にあやかって元旦から開催されていた、スウェーデンを拠点に活動する画家・中島由夫さんの「昇り龍展」に出かけました。場所は世田谷の常在寺。
三が日にやってきた子どもたちと一緒に帯巾の30メートルの紙に「描き初め」した絵が、それこそ長ーい龍のように床に居ました。
由夫さんは今年、ポーランド・ナショナル美術館で開催される、ウクライナの平和を祈る展覧会に東欧の作家2人と共に招待されており、この作品を持っていくそうです。
スウェーデンにとって、東欧もウクライナも隣人です。

中島由夫、辰年。
1940年、埼玉県の農村に生まれるが、小4のとき図工の教科書の載っていたゴッホの絵を見て、「絵描きになる!」と決意。中学卒業後上京し、働きながらひたすら絵を描いているのを、目黒の路上でオランダの国立美術大学の教授に見いだされ、渡欧を勧められる。
1964年のまだ東京オリンピック開催前、靴底に3千円だけ忍ばせて香港に渡航。絵を描きパフォーマンスをして路銀をつくりながら陸路でユーラシア大陸を横断、オランダへ。
1966年、スウェーデン王立アカデミーに入学。以後スウェーデンを代表する画家となっていきます。
一方、1974年、ウベボーダという廃れた石切り山の村で国際シンポジウムを開催。「芸術運動への招聘」の名目のもと、当時ソ連の抑圧下で難民となった東欧の人たちを無制限に受け入れました。
この話、今の世界情勢を鑑みるにつき、改めて凄いことだと思います。芸術の力そのもので、東西冷戦による一番弱い犠牲者にコミットすることを果たしたのです。

由夫さんとは、20年以上前に「飛ぶ教室」という名の英語教室の縁で出会いました。
いたずらっ子のような人なつこさ。垣根をつくらず誰をも見つめる眼差し。ふだんの由夫さんは冗談ばっかり言っている愉快なおじさんにしか見えないのに。
『Love is All~長い旅をする太陽のように』――由夫さんの著書のタイトルです。

人の創造力(想像力)はきっと、平穏に向かうことにコミットするのだと思います。
江戸時代に庶民の創造力が生んだ、厄災と戦争終結(平穏)の未来を告げた妖怪「予言獣」たちもまた――
こぶな書店とヒマールは『転校生の花子さんとヨゲンジュウ』(2022年)、『疫病と妖怪~アマビエと予言獣』(2023年)の2冊の絵本を刊行しました。
その絵本原画展「立春招福!ヨゲンジュウザクザク!」を2月に開催します。
ユーモラスな予言獣たちと、皆様をお待ちしています。

描き初めの龍と踊る由夫さん
豊年龍!?ならぬ豊年魚の図(『疫病と妖怪』より)

インボイス制度への対応につきまして

2023年10月1日より実施の「インボイス制度」につきまして、お知らせいたします。

こぶな書店、並びに、こぶな書店の取引を代行しているヒマールは、現在のところ、インボイス制度反対の立場からインボイス番号を登録しておりません。
しかしながら、本を販売してくださる書店様に金銭的なご負担をおかけすることは本意でありませんので、実施後3年間の経過措置(インボイスがなくても消費税額の80%を控除できる)期間につきましては、控除に算入できない消費税額の20%に相当する金額を、御請求金額よりお値引きすることでご了承いただきたく、何卒お願い申し上げます。
尚、書店様が課税事業者であるか免税事業者であるかには関わらず、上記のお値引きは一律でいたします。

『ととのはたけと、うたれちゃったしか』原画展@ブックハウスカフェ(東京)

絵本『ととのはたけと、うたれちゃったしか』原画展
〜白幡美晴が「消しゴムはんこ」で描く風景〜

会期:2023年8月23日(水)〜29日(火)11:00-18:00(初日13:00から/最終日17:00まで)

会場:ブックハウスカフェ「ギャラリーこまどり」
東京都千代田区神田神保町2-5 北沢ビル1F
TEL:03-6261-6177

【オープニングパーティ】
23日(水)18:00〜21:00(19:00より畠山重篤トーク)
参加費:2,000円(ドリンク2杯+スナック付)
*当日現金払いのみ/追加オーダー可(食事あり)/途中入退場自由
ご予約・お問い合わせ:kobunabooks@gmail.com

【在廊日】
畠山重篤:23日(水)、24日(木)、25日(金)いずれも15:00〜18:00
白幡美晴:28日(月)11:00〜17:00
・消しゴムはんこを使ったイラストづくりの背景などお話しします。

ほか詳細は下記リンク先でご覧ください。
https://bookhousecafe.jp/exhibition/content/1026

【書店さまへ】7/31まで!ととしか夏休みキャンペーン

刊行から2度目の夏休みを迎える『ととのはたけと、うたれちゃったしか』はたけやまなぎ・畠山重篤(著)/白幡美晴(絵)。
おかげさまで、好評2刷!
子どもも大人も、いっしょに読んでたのしめて、命について、人と自然との共存について、考え話し合える、おすすめの一冊です。

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カテゴリー: News

新刊!常光徹(絵:楢喜八)『疫病と妖怪 ーアマビエと予言獣』

桜、さくら、花吹雪……
春四月、今年の新年度は、やっと新型コロナに関する諸々が緩和され、心和やかな笑顔があふれていますね。
少しずつ、このまま不安が小さくなっていきますように――と祈りつつ、新刊のご案内です。

「疫病と妖怪 ―アマビエと予言獣」
著者:常光徹 絵:楢喜八
発行日:2023年4月22日
定価:2,800円+税
B4変型(天地238mm×左右250mm)
全ページフルカラー/48ページ
ISBN978-4-9910842-4-9

[予言獣]を知っていますか?
新型コロナウイルス感染拡大のなかで話題になったアマビエ。
江戸時代後期以降、アマビエのほかにも、流行病、作柄などを予言したあと除災の方法を告げたという、さまざまな妖怪が登場します。
そうした妖怪は、妖怪研究者の湯本豪一さんにより「予言獣」と総称されています。
本書は、アマビエを手がかりに、目に見えない病魔と闘ってきた人々の悪霊退散の伝承をときあかします。
多彩な予言獣が大集合! 図鑑のような絵本(御利益つき!?)。

○大判サイズで迫力の写真とイラスト…貴重な図版を最高の技術で印刷しました
○ダイナミックな観音開きページ。横の長さは1メートル!

著著の常光徹さん(国立歴史民俗博物館名誉教授)は、民俗学研究の第一人者。
世代を超えて熱烈なファンをもつ画家・楢喜八さんが江戸時代と現在をつなぎます。
この二人は1990年~2000年代初頭に大人気を博した『学校の怪談』(講談社)コンビ。本書では、編集、デザイン、写真、印刷担当も同書制作チームが再結成し、粋をこらしました。

予言獣は多くを語りません。
私たちはアマビエのメッセージを聞きとれていたでしょうか。
そして、予言獣は疫病だけでなく、戦争を予言します。
もしかしたら、その予言獣を見逃していないでしょうか?
今、予言獣の言葉に耳を傾けてみませんか。

★あわせてご注目ください!
好評既刊―スピンオフ・ミニ絵本
スピンオフを先に読むのも楽しい―お守りみたいに持ち歩ける、楢喜八の真骨頂! ひそやかな傑作!
「転校生の花子さんとヨゲンジュウ」
著者:楢喜八 監修:常光徹
定価:1,100円+税
A6判横 上製本/24ページ
ISBN978-4-9912195-1-1

●著者紹介
常光徹(つねみつ・とおる)
1948年高知県生まれ。國學院大學卒業。国立歴史民俗博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。民俗学の著書に『しぐさの民俗学』『日本俗信辞典 衣裳編』(共に角川ソフィア文庫)、『魔除けの民俗学―家・道具・災害の俗信』(角川選書)など。児童書に『学校の怪談』全19巻/楢喜八絵(講談社KK文庫)、絵本に『妖怪図鑑』/飯野和好絵、『じごくにいったかんねどん』/かつらこ絵(共に童心社)など。

楢喜八(なら・きはち)
1939年樺太に生まれる。1968年ミステリマガジン(早川書房)でデビュー以来、ミステリー・SF・ユーモア小説を中心に装画・挿画を手がけ、幅広い世代のファンをもつ。1978年講談社出版文化賞、2004年田河水泡賞受賞。2020年『誰かが見ている―楢喜八作品集』(こぶな書店)、2021年『転校生の花子さんとヨゲンジュウ』(ヒマール/こぶな書店)刊行。

●図版提供
国立歴史民俗博物館・湯本豪一記念日本妖怪博物館・京都大学附属図書館・国立公文書館・国立国会図書館・徳川林政史研究所・名古屋市博物館・名古屋市蓬左文庫・沼津市明治史料館・山梨県立博物館・近江八幡市秘書広報課・田村市+朴橋お人形様保存会・(公財)ながの観光コンベンションビューロー

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